妄想の十二「広げたマント」
-その2-

  青年マント

 難産の末に生まれた12と13話。
 まずは12話「レーダーマン」だがこれは紛れもなく「ヒーロー物」である。我らが電波系ヒーローその名も「マニワ・ザ・レーダーマン」!
 最初のプロットでは「チューナーマン」だったけど(笑)。濁音が入ってないと何か「弱そう」な気がしたので、戸川純さんの名曲にちなんで「レーダーマン」にさせてもらった。
 紛れもなく「ヒーロー物」というにはあまりに格好悪いヒーローかもしれない。実際、安藤さんが描いた「変身後の馬庭」のキャラ表には“カッコいいようで かっこ悪い感じ”というメモがあった。格好は悪いかもしれないが、ストーリー構成はヒーロー物や対決物によくあるパターンだろう。
 まず敵との対決(VS少年バット)があり、ここでは敵にかなわない。倒す手がかりを探ってアイテム(聖なる剣こと金属バット)を手に入れてパワーアップ、そして再び決戦。
 おさだまりの構成だ。しかしこの古くさい縦糸も電波の横糸と紡ぎ合わせれば随分と新しくなると考えた。正確に言うと逆かも。横糸が訳分からないから縦糸を分かりやすくした方がいいという考えであろう。
 訳の分からなさ加減はシリーズ後半ほど加速してきていたし、11話あたりになるとそれまでの経緯を知らない人にはまったく意味不明のアニメに見えると思 う。実際、アフレコの際、この話数にだけ登場する月子の父親役の声優、加藤精三さんはさっぱり訳が分からない、という感じだったろう。
 馬庭が月子の父親を訪ねたシーンのラスト。馬庭が、その目には聖剣に見えるバットを捧げ持って「お導き、感謝します…老師!」と感無量に口にする。月子 の父親は意味が分からず、「?」となる。ここでの声にならないリアクションの芝居を説明するのに、音響監督が加藤精三さんにこう伝えてくれたらしい。
「加藤さん、今日のアフレコに参加した気分そのままで」
「ああ!」
 ひどく納得が行ったらしい(笑)

 7話「Mhz」以来登場しなかった馬庭は11話「進入禁止」で再登場するが、姿はすっかり変わり果てている。その間何があったのか、一切説明はしないし、我々も考えてはいない。考えたって分かるもんか、電波の人のことなんて(笑)
 無責任なのではなく、これも「分からない人月子」と同じ要領で、目に見える外側だけを描くことでその内部は見ている人が勝手に想像すれば宜しい、という戦術である。
 馬庭は5話「聖戦士」でファンタジー世界への親和性を現し、そこで「老師=惚け老人」との糸が繋がる。電波の糸だ。その糸が7話で段々と太くなり夢を介 して馬庭は少年バットの真実に迫った。一度届き始めた電波はその後もっと強くなり馬庭はそちらの世界へ完全に行ってしまった、という程度に認識していた。
 対照的なのは猪狩である。馬庭と共に同じ局面に遭遇していた猪狩は、「やっとられんわい」とばかりに現実から逃避して行き、行き着いた先は自分の思い出の街、希望の街、都合の街である「記号の町」ということになる。
 馬庭にしろ猪狩にしろそれぞれの主観的な世界に入って行くのだから、対照的というより同型的と言った方が正しかろう。そして踏み込んだ主観的な世界から 猪狩は美佐江の助けをきっかけに自らの意志で戻ってくることになり、馬庭はそちらの世界に行ったきりとなる、というのが最終回での流れだが、この関係を考 えていたらふと「MEMORIES/彼女の想いで」(脚本は不肖、私)の主人公たちを思い出した。ハインツとミゲルの関係とよく似ている。ハインツは自ら の意志で思い出の世界を脱するが、ミゲルは取り込まれる。多分猪狩と馬庭の顛末を考える上で、「彼女の想いで」のケースが下敷きにあったように思う。また もや使い回しだが、同じ人間が考えていることなので仕方ない(笑)
 過去のイメージを使い回すという意味では、レーダーマンのイメージには私がコンテ・演出を担当した「ジョジョの奇妙な冒険」も反映している。
「ヒーローといったらマントだ!誰が何と言おうとマントは絶対必須のアイテムだ!」
 といったのも私だろう。
「マントをなびかせたヒーローは必ずビルの上に立っているものだ!」
 と言い張ったのも私に違いない。エライ偏見かもしれないが、ヒーローはビルの上に立っているものなのだ。
「夜、ビルの上にあるネオン看板をバックに立つマントをなびかせたレーダーマン」という12話のサブタイトルが出るカットは、「ジョジョ」からの使い回しのイメージだと思われる。

尺の配分

  完成した12話の画面はよく出来ていると思うが、全般にレーダーマンの芝居が「オマヌケ」なイメージなったのは、私としては少々残念ではあった。これはこ れで面白いと思うが、私のイメージではもっと本気の「ヒーロー物」のつもりだった。ヒーロー本人が大真面目なほど結果的におかしい様が浮かび上がると思う のだが、やはり我慢しにくいものなのだろうか。
 我慢しにくい、というのは「これは冗談ですからね」と断らないと冗談が描けない、とでも言おうか。そういう意味では5話も似たような傾向にあったといえ る。こちらも出来上がったものはコメディ風なトーンで統一されているので、特に注文は出さなかったが、猪狩などはもう少しシリアスにやっても面白かったの ではないかと思う。「冗談か本気かよく分からない」ままお客に提示するのは、真面目に仕事をする人ほど難しいものかもしれない。私だってそういう傾向が強 いが、何とかお客さんが楽しむ余地を残そうと思って、経験を頼りに「我慢」をしているつもりだ。私は「シリアスな顔からたちの悪い冗談」という態度を大事 にしている。
 そういう我慢のなさという事情も手伝ってか、12話完成版では随所に「ふざけています」という記号(芝居やポーズなどに顕著だ)が挿入されたのだろう。 ただレーダーマンは基本的に12話でしか活躍しないし、その解釈は演出の裁量ということで私は特に注文は出していない。
 ただ、演出的に残念に思えるのは12話はヒーロー物の見せ方にしては竜頭蛇尾(少々失礼な言い方かもしれないが)になってしまった印象が拭えない点だろうか。最初のコンテチェックの段階で、やけに冒頭のアクションがシナリオより大きく膨らまされていた。
 シナリオではせいぜい30〜40秒もあれば終わるレーダーマン対少年バットのアクションシーンが、倍以上の尺になっていた。もしやと思ってコンテ・演出担当の高橋氏に尋ねてみた。
「アクションシーン描くの初めて?(笑)」
 その通りだった。
「分からないでもないんだよなぁ、いくらでもアイディアが浮かぶしなぁ、初めてアクションやると膨らませたくなるんだよなぁ」とは思ったのだが、さすがに 冒頭が重たくなりすぎるので、コンテ段階でこのアクションシーンを随分詰めてもらった。それが完成品になっているが、それでもやはり長すぎたと思える。と いうのも冒頭のアクションに比べて、肝心な後半の対決シーンが淡泊に見えてしまうのである。前半のアクションをもっと詰めて、その分後半のアクションに尺 やアイディアを投入すれば、もっと1話数分の見応えが生まれたと思う。
 このバランスは少々失敗であったろうが、12話の完成版は作画的にも内容が濃く、作監・三原さんの腕力を初め、参加している原画マンの力も大きく手伝って、十分見応えのあるものになっていると思う。

 先に「シナリオではせいぜい30〜40秒」と書いたが、これには簡単な換算法がある。シナリオの字詰めは書き手や作品ごとに違うので総枚数もそれによっ て異なるが、「妄想代理人」の場合は1話数につき20枚を目安にシナリオを書いてもらっていた。実際、毎回ほぼ20枚で収まっている。本篇1本は21分と 決まっている。
 なので後は単純計算。

 21×60秒=1260秒÷20枚=63秒

 つまりシナリオ一枚につき平均63秒の計算でコンテを描いていくと概ね収まることになる。もちろん編集のために多少長めに作るが。
 カット数も同様である。「妄想代理人」では300カット(無論多少の前後は許容範囲だが)を目安にコンテを描くことに決まっていた。

 300カット÷20枚=15カット

 シナリオ一枚につき、約15カットで割って行けば概ね収まる。
 会話シーンとアクションシーンでは同じシナリオ一枚でもかかる尺もカット数も大きく異なるので、これはあくまで平均の数字だが、便利な目安である。コン テを描いて全部尺を入れてみたら「えらくオーバー」していたとか、「足りなかった」では目も当てられない。
 ひどいのになると某話数では半パートで3分オーバーしていたというから、およそさしたる計算もせずにただコンテの都合で描いていたのであろう。人ごとで はなく、私も過去に程度の差はあれ同じような経験はあるので、シナリオ上で尺とカット数の計算をしながらコンテを描くようにしていた。なので1話も2話も 21分を20秒ほどオーバーした理想的なコンテ尺に収めたが、それら話数よりよほど注意していた13話で一瞬焦る事態になった。13話はシナリオが21枚 と少し多めだったので「詰めつつ詰めつつ」と気にしてコンテを描き、途中はほぼ理想的なラップタイムをカウントしていたのだが、全部上がってみたら40秒 ほど足りなかった(笑)。すぐにフォローはしたのが、この時はさすがにビックリした。そんな話は後でまた。

 12話のテーマ音になっているのは「ノイズ」。それもこの話数までにテーマになった音が全部混じり合ってノイズになっているというイメージで、馬庭はそ のノイズから意味のある情報を聞き取る。だからレーダーマンなのだ。本篇中、画面にしろ音声にしろノイズは上手く活かされてざらついた感触がよく表現され ていたと思う。冒頭の流れる路面とインサートの積み重ねや、マロミ現象をザッピングしながら見せて行くあたりは非常にいい感じだと思う。
 馬庭の電波網は惚け老人のそれと重なっている。そしてそのネットワークには、少々頭がいかれている美佐江、ディープなオタクの世界観を投影されたフィ ギュアたちがリンクされており、少し外れたところに「記号の町」に入り込む猪狩がいるというイメージだ。少し離れている、というかマロミにブロックされて いる分、馬庭は記号の町には直接入り込めない。
 馬庭には入って行けない「記号の町」。そこへ降りて行けるのは美佐江。それも手術中の夢を通って、深い意識になるからこそ降りて行けるのだ。常ならざる 人がさらに常ならざる状態になったからこそ入って行ける。ここには「愛」の力が大きく手伝ってもいる。本気だぞ(笑)

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